弔いのかたちが多様化したこと、そして少子化傾向にあることから、従来の「最後の住処として、お墓を選ぶ」という選択肢は見直されつつあります。
今回は、この「お墓の役割と必要性」について見ていきます。
なお、現在はさまざまなお墓の形態がありますが、ここでいう「お墓」とは従来型の、墓地に置かれている墓石であり、そこに家族が代々眠っているという形態のものを指します。
目次
お墓はいらないと考える人の理由
現在、「お墓は必要がない」と考える人も増えています。
少子高齢化が進み、祭祀後継者がいなくなったのも理由のうちのひとつだといえるでしょう。
お墓があっても、それを継ぐべき人がいなければお墓は荒れ果ててしまいます。
また、子どもがいたとしても、子ども自身も地元から離れているとお墓を管理することは非常に難しくなります。
このようなことが理由の場合、「お墓を新しくたてるのはやめる」という選択肢だけでなく、「今あるお墓をしまい(閉眼)子どもがいる地域にお墓を移す、あるいはお墓をしまって手元で供養していったり納骨堂に納めたりする方法を検討する」という選択肢があがってきます。
また、金銭的な問題でお墓を購入するのが難しいケースもあります。
お墓は、新しくたてようとすると200万円程度もかかることもあります。(お墓購入費の全国平均195万円)
関連記事:お墓の値段と費用相場|永代使用料、墓石代、墓地管理費
もちろん、「先祖代々のお墓があるのでそこに入れる」という場合はこのような金額はかかりませんが、新しくお墓を作ろうとする場合は非常に大きな負担としてのしかかってくるでしょう。
また、「そもそもお墓をたてる必要性を感じない」という人もいます。
国が檀家制度を設けていた江戸時代とは異なり、現在は「自分の菩提寺(ぼだいじ)もよくわかっていない」「お寺との関わりは薄い」という人も多いのではないでしょうか。
※菩提寺とは檀家として所属している寺の事を意味します。
また、樹木葬や海洋葬、あるいは手元供養などのさまざまな供養のかたちが提案されるようになった今では、「お墓は持たずに、家族があるいは故人が望んだかたちで供養していきたい」と考える人も増えています。
このようなことから、「お墓は持たない」と決める人が増えているのが現状です。
お墓を持たないことのメリットとデメリット
ただ、「お墓を持たない」と決める前に、「お墓を持たないことのメリットとデメリット」について把握しておく必要があります。
お墓を持たないメリット
お墓をあえて持たないとすることのメリットは、上でも述べた通り、「金銭的な問題」があります。
先祖代々のお墓にご遺骨を納める場合はそれほど問題にはなりませんが、新しく墓地を購入して墓石を置く……ということになれば、100万円単位でお金が飛んでいくことになります。
また、供養にもお金がかかります。
お墓を最終的に墓じまいする場合においてさえ、閉眼供養などでお金がかかるので、一度お墓を持つことを決断すると、その後にも経済的な負担が生じることになります。
【関連記事】墓じまいとは|永代供養にかかる費用相場と必要な行政手続き
少子化が叫ばれる今、「後継者がいないこと・後継者がいなくなる可能性」に頭を悩まされずに済むというのも大きなメリットです。
もっともこれは、「永代供養をお願いする」という方法である程度は解消が可能です。
永代供養の場合は施設側が責任を持って供養してくれ、一定のタイミング(三十三回忌など)で合祀をしてお祀りをしていきます。
「自分らしい葬儀をしてほしい」と望む人が多くなり、またその希望も叶えられるようになった今、「終の住処」もまた自分好みにカスタマイズしたいと考える人もいるでしょう。
「自然が好きだったので木の下に眠りたい」「海に帰りたい」「家族の側でずっと過ごしたい」という希望も、旧来型の「お墓」に囚われなければ選択肢が増えます。
お墓を持たないデメリット
ただし、お墓を持たないことにもデメリットはあります。それについて見ていきましょう。
お墓は、亡くなった人を弔うときのシンボルとなりうるものです。
弔いのかたちが多様化してきたとはいえ、現在でも多くの人が「手を合わせる場所」と聞けば「お墓」を思い浮かべることでしょう。
お墓を持たないということは、このような明確なシンボルを持たないことに繋がります。
もちろん、樹木葬の場合は木がありますし、手元供養の場合はミニ仏壇などを飾ることもできます。
納骨堂にご遺骨を納めれば、それが「手を合わせるべき対象」になるでしょう。
しかしそれでも、「やはりお墓が良い」と考える人はそう少なくはありません。
お墓の選択肢は増えてきていますが、実際に購入する人の半数は、従来型のお墓を購入しています。
理由は、
歴史の浅い新しいものに対する不安 < 従来型のお墓の安心感
ではないでしょうか。
『そこに行けば祖先がいる』という家族のシンボルを持つ事の安心感を得れないことが、お墓を持たない事の一番のデメリットだと感じます。
お墓を持たない場合、遺骨はどうすればよいか?
お墓を持たないと決めたのであれば、ほかの方法を考えていく必要があります。
【関連記事】お墓以外に増える納骨先の選択肢|故人の遺志と家族形態で考える
手元供養
まず大前提として知っておいてほしいのは、遺骨を「納骨」しなければならないという法律はないということです。
そのため、すべての遺骨又は一部の遺骨を手元において供養していく方法をとることもできます。
棚の上に遺影と一緒に置く、収骨スペースのある仏壇に入れるなど人によって様々だと思いますが、一番費用のかからない方法だと言えます。
しかし、納骨を一切せずに手元供養をしていく場合については、家族や親しく付き合っている人はいいのですが、「故人と親しかったので手を合わせに行きたいが、遺族とはそれほど親密ではなかった」という人などは少し足を運びにくくなるかもしれません。
また、一番重要な事ですが、他に家族や親族がいない方が手元供養を選択すると、自身が亡くなった後に遺骨の処分などで周りの人に多大な迷惑をかける事になります。
その様な方の場合は、後で述べる他の選択肢を検討する必要があります。
納骨堂
お墓を持たない場合で、しかしお墓と同じように手を合わせたい……という場合は、「納骨堂」がよいでしょう。
これは屋内にあるものであり、ロッカーなどのようになっているところにご遺骨を納めていくものです。また、仏壇型になっているものやお墓のかたちをとっているものもあります。
【関連記事】納骨堂の意味は?費用と選び方に合祀墓と永代供養墓との違い
樹木葬
樹木葬とは、従来の墓石の代わりに樹木をシンボルとしたお墓のことです。
一般的なお墓の次に人気のお墓で、近年は公営・民営霊園でも急速に樹木葬が増えています。
【関連記事】東京都心港区の格安樹木葬墓地の詳細
後継者を必要としない永代供養の場合が多く、費用も安く抑えられます。
故人ごとに個別の樹木があるわけではなく、一本の樹木に対して多くの人が埋葬される形であるため、家族のお墓としては向きません。
【関連記事】樹木葬墓地とはどんな埋葬形態?費用や永代供養の仕組みを解説
永代供養墓・合葬(合祀)墓
「墓地を使いたいけれど、後継者がいないことが気がかり」という場合は、永代供養墓や合祀墓を選ぶとよいでしょう。
永代供養墓の場合は最初の頃は独立したお墓に入ることになります。
三十三回忌などのタイミングでほかのお骨と一緒に祀られます。(納骨施設によって違い有)
合祀墓の場合は、最初にご遺骨を納める時点でほかのお骨と一緒に入れられることになります。
一度合祀(ごうし)をしてしまうとご遺骨は取り出すことができません。
合祀とは、他の遺骨も一緒にまく(土に返す)埋葬方法のため、一度埋葬すると特定の人物の遺骨だけ取り出す事が不可能です。
最後の住処なのにほかの人と一緒に祀られることに抵抗感を覚える人もいるでしょう。
自然のなかで過ごしたいと考えるのであれば、樹木葬や海洋葬がよいでしょう。
樹木葬は、花や木をシンボルとして眠る方法です。合祀にしろ個別での埋葬にしろ、「手を合わせるシンボル」はあります。
対して海洋葬の場合は海にご遺骨を撒くかたちをとります。回収をすることは当然できませんが、海を愛している人にとっては最良の弔いの方法になるかもしれません。
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まとめ
「お墓を持たない」という選択肢は、現在ではそれほど珍しいものではなくなっています。
少子化や意識の変化、経済的理由など、さまざまな理由で、「お墓を持たない弔いのかたち」が模索されています。
樹木葬や海洋葬、合祀墓、手元供養など、一般的なお墓を持つことなく供養できる方法はたくさんあります。
しかし、『後継者の問題』『金銭的な問題』がなければ、一般的なお墓を購入する人の方が現在でも多いです。
お墓にはシンボルとしての役目がありますし、だれもが気軽に手を合わせられ、長い月日が流れても多少の風化はあっても、ほぼそのままの形でそこにある・・変わらぬ良さがあります。
「お墓を持つこと・持たないこと」に正解はありません。
ただ、自分と家族が最終的に納得できる供養方法を探しましょう。
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